子どもを本質的に大切にするための、マインドの話です。
※本記事は、旧ブログ「なるさわばしこLABO」の「自尊心の貯金」に、修正を加えた上で転載したものです。当時は小学校で働いておりましたので、教育関係者に向けた書き方をしています。2019年10月現在、所属等、現在の状況とは異なる記述があります。
なるさわばしこが考える、学校の先生のお仕事は、大きく分けて二つあると思っています。
①子どもを賢くすること
授業や学習支援によって、学力を上げることです。
②子どもを幸せにすること
定義は色々あるのですが、ここでは「毎日、学校に行くのが楽しい」「自分は素晴らしい人間なんだ」と思える状態にすること、そのための環境づくりや声かけなどと定義します。
今回は、この②について思うところ、子ども達を幸せにするにはどうすればいいのか?について考えたことを書いていきます。
自尊心の貯金とは(使う・投資する)
私は、自尊心(自分を大切にする心)は貯金のようなものだと思っています。
使えば減りますし、もらえば増やすことも、投資することもできます。
ここでの「使う」とは、自尊心を傷つける言葉や態度によって、自分を大切だと思う気持ちが減ることをさします。
反対に、「もらう」とはあたたかい言葉や集団に受け入れられたり、援助されたりして、自分を大切に思う気持ちが増えることをさします。
また、「投資する」とは人に対してあたたかい言葉をかけたり、優しく接したりすることで、結果として自分に優しさがかえってくる、互いに互いを大切にする気持ちが増えることをさします。
自尊心の収支
学級経営は一般に、そのクラス全体での「自尊心の収支」がプラスに傾けば成功(互いが互いを思いやり、個々が自尊心をもって日々を過ごしている)し、マイナスに傾けば失敗(互いが互いを傷つけ合い、個々の自尊心が低下した状態で日々を過ごしている)するものと考えられます。
自尊心の収支をプラスにするためには、学級担任は自分の自尊心の貯金をどんどん投資し、思いやりの種を蒔くと共に、自尊心の投資をすること=人にあたたかく接することはいいことなのだという模範を子どもに示す必要があります。
そうしてクラスの中に自尊心の貯金もちをたくさん作り、その子たちから貯金がマイナスの子に投資をしてもらうことによって、クラス全体の自尊心の収支の底上げをはかるわけです。
クラスに問題児(自尊心の貯金がなく、負債のある子ども)がいた時、その子ばかりを構うのではなく、今頑張っているその他大勢の子ども(少なくとも今は自尊心の貯金がいくらかはある)のケアこそが必要とされるのはこのためです。
負債を返すより、今プラスのところを増やし、いくらか貯金を蓄えてから、返済にあてた方が効率がよいのです。
自尊心の貯金持ち・自尊心の負債
どういう子どもが、「自尊心の貯金」が貯まっているのかというと、こういった特徴があります。
・常に口角が上がっている いつも笑顔
・家族で過ごした思い出を楽しそうに話してくる
・学校のイベントに対し意欲的、自分の持てる力で活躍しようとする
・小さな変化や面白さによく気が付く(「先生!僕たちの班、前の学年の全部のクラスから一人ずつ集まってます!」「○○ちゃんと××ちゃん、今日同じ色のお洋服だね」)
・多少いじわるをしてきた相手でも、困っていたら筆記用具を貸す、教科書を見せるなどの援助行為ができる
また、家庭や今までの学校との関わりなど、色々な事情から「自尊心の負債」を抱えている子どもには、こういった特徴があります。
・どこか上の空、無気力
・表情が暗い、不愉快そうな顔
・いつもうつむきながら下校している
・ぶつぶつと「殺す」「キモイ」など独り言をつぶやいている
・クラスに指示をし、全体で学習を進めるが、その子だけ何も机に出していない(指示に気付かない)
・係活動など、友だちと協力して仕事をする場面で、一人だけぶらぶらと歩いている
・いやな気持ちになった時に、言語化ができず、かっとなる。手が出てしまう
・授業中、保健室にしょっちゅう行きたがる
・授業中にわざと妨害行為をする
・友だちに対する寛容度が低い(隣の机から手が飛び出ただけで小突く、行動の遅い人に対して悪態をつく)
皆さんの周りにもこういった子がいると思います。対処に注意が必要なのは、この「自尊心の負債」を抱えた子どもです。
負債を返すのが先
一番大切なことは、「負債を返すのが先」ということです。
上の例で言うと、係活動にまったく取り組まない事実を責めることは、その子にとっての負債を増やすことでしかありません。友だちに手を出した事実を頭ごなしに叱ることも同様です。根底にある気持ちがどうであれ、そのままでは咀嚼できないでしょう。
指導(正しいことを毅然と教える)ことにも、ある程度の「自尊心の貯金」が必要なのです。子ども理解に長けた先生はこのことをよく分かっていらっしゃって、指導を入れるタイミングが来る前に先手を打って子どもを褒めます。そうすることである程度「自尊心の貯金」を貯めておくわけです。
しかし、「自尊心の貯金」という考え方がない大人たちは、往々にして「自尊心の無駄遣い」をしてしまいます。こういう声かけや接し方をしてしまったことや、目にしたことはありませんか。
(学習用品を忘れた)「また?」「何度目だと思ってるの?」「○年生に戻ったら」「先生は○○屋さんじゃないんだけど」
(行動が遅い)「○○さんのせいでみんなに迷惑かけてる」「○○くんを待つために30秒かかりました」「遅い!」
(誰かに負けた)「○○さんがもっと頑張れば勝てたのに」「○○さんはすごいな。それに引き換えあなたは……」
(相談してきた)「それ今大事なこと?」「今は帰りの会が始まるところですが、あなたが言いたいのはそれより大事なことですか?」
(余計なひとこと)「手伝いありがとう。いつもこうだといいんだけど」「静かに勉強してるね。具合悪いの?」
(態度)目を合わせない、言葉に対して無関心、失敗を責める、スキンシップを求めてきたときに冷たくあしらう、悲しんでいる時に無視をする
こうした接し方は、子どもの自尊心の貯金を意味もなく、どんどん削っていってしまいます。
世の中には自分の気持ちよさ(教師としての働きやすさ、親としてのプライドなど)を守るために、容赦なく子どもの貯金を浪費するタイプの大人もいるのです……こうした大人に囲まれた子どもは、日々負債を重ねていってしまいます。
そんな子どもは、声に出して「負債を返したい」=「ぼく(私)の存在を認めてほしい」とは言いません。今までさんざん試してきてもだめだったからです。
問題行動によって、なんとか負債を返そうと頑張るのです。
問題行動は、その子なりの借金返済の方法なのです。
そして、負債を返済しない限りは、問題行動もなくならないでしょう。
ちなみに、自尊心の貯金を増やす(褒めたり認めたりする)ということなしに、厳しい指導によって、クラスを一時落ち着かせることはできますが、それは問題の先送りにすぎません。
問題児ばかりの、荒れたクラスを受け持った先生。
その年は厳しい指導によって落ち着いたクラスになった……というのはよく聞く話ですが、その次の年、膨れ上がった負債によって、リバウンドする可能性が高いです。
「ではその次の年も厳しい指導をすればいいのでは?」
またさらにその次の年にリバウンドします。
「大人になるまで厳しい指導を続ければいいのでは?」
大人になってからリバウンドします。その人は生きづらさを抱えてゆくでしょう。
負債はなくなりません。いつかは返さないといけないのです。
大切なことなので何度でも言います。
負債を返すのが先なのです。
終わりに
困った子にこそ、「あなたが大切だよ」「あなたが必要だよ」というメッセージを送り続けてください。いつか負債を返した時、その子は思いやりのある人に育つでしょう。
私はそんな例を何度も見てきました。
どうか子どもの自尊心の貯金を増やす大人が、たくさん増えますように。